
登山やトレイルランイベントにおいて、ただ先頭を走るだけでは「引率者」とは言えません。
重要なのは、参加者全員が無事に、そして安心して戻ってこられるように、事前にどれだけのリスクを想定し、現場でどれだけ判断と対応ができるか。
ここでは、実際のトラブルを例にとりながら、「事故を起こさないための想像力」について考えていきます。
すべてを予測するのは不可能。でも「想定」はできる
山でのランニングイベントや練習会において、引率者は常に「起こり得る最悪」を考えておく必要があります。
それは不安を煽るためではなく、現場で判断を誤らないための準備です。
よくあるトラブルは「些細な見落とし」から
転倒、捻挫、体調不良、道迷い、脱水、そして焦りによるパニック。
これらは特別な事故ではなく、いつでも誰にでも起こり得ることです。
しかも、多くは「装備の確認不足」「自分の状態に気づけない」など、ちょっとした見落としが原因です。
引率者は、それらの兆候にできるだけ早く気づくことが求められます。
「やけにペースが速い」「水を飲まない」「表情が硬い」――そんな小さなサインを見逃さないこと。
そして、それを“声をかけていい雰囲気”の中で、自然に伝えられる空気づくりも大切です。
実例:小さな見落としが大きなリスクにつながった
実際に私が引率した山の練習会で、ある参加者が急に遅れ始めたことがありました。
最初は「体調が悪いのかな」と思った程度でしたが、声をかけてみると、前日からあまり眠れていなかったこと、朝食をしっかり摂っていなかったことが判明しました。
そこから脱水の傾向が見られ、脚もつりはじめ、最終的には別行動でゆっくり下山してもらう判断をしました。
幸い、大きな事故にはつながりませんでしたが、「なぜペースが遅いのか」に早めに気づかなければ、もっと深刻な事態になっていた可能性もあります。
この経験を通じて学んだのは、「おかしいな」と思った瞬間に確認すること、そして事前に睡眠・食事・体調なども含めて参加者とやりとりしておくことの重要性です。
判断に迷うときは「安全側」に倒す
「ちょっと無理すればいけそう」「本人も大丈夫って言ってる」――
そんなときにこそ、引率者は“安全側”に判断を倒すべきです。
勇気を出して引き返す。ルートを短縮する。ペースを落とす。それが本当のリーダーシップです。
判断に迷ったときのために、「迷ったら引き返す」ルールを出発前に全員と共有しておくことも大切です。
誰も文句を言わない空気、判断を支持する文化。それが安全を守ります。
「トラブルを予防できる人」が本当の引率者
何かあってから対応する人ではなく、何かが起きる前に流れを整えられる人。
それが、山での引率者に求められる役割です。
出発前の装備確認、地図とルートの共有、立ち止まりやすいポイントの把握、最も遅い人の気配を感じる力――
これらを地道に積み重ねることが、「何も起こらなかった」という最高の結果につながります。
まとめ:正解は「何も起こらなかった」ではない
うまくいったイベントほど、何も問題が起きなかったように見えます。
でも実際には、引率者がその裏で何層もの想定をめぐらせ、判断し、声をかけ、気配を察知していたからこそ、
「無事だった」のです。
山では、想定する力こそが最大の安全装備です。
それを引率者が持ち、当たり前のように発揮しているとき、参加者は安心して走ることができます。