
「とりあえずみんな一緒に出発すれば大丈夫」
そう思っていた登山で、はぐれた人が出た――そんな話は珍しくありません。
山の中では、1人が見えなくなった瞬間に“緊急事態”が始まるのです。
道に迷う、転倒する、体調を崩す――そのとき、誰と、どうやって連絡を取るか。
そして、どこで合流するか。
それが決まっているかどうかで、生存率も不安感も大きく変わります。
この章では、山の中での“はぐれても助かる仕組み”の作り方について、
実際の事例とともに解説していきます。
事例:連絡手段がなく、引率者とはぐれて道迷い
あるガイド付き登山で、最後尾を歩いていた参加者が転倒して膝を痛め、遅れてしまった。
そのまま引率者とはぐれてしまい、どこに向かえばいいのかわからず、分岐で迷ってしまう。
不安になりながらもスマホで連絡しようとしたが、電波が不安定で通話できず、結局その場で不安なまま2時間待つことになった。
この事例の問題点は、「引率者と連絡が取れなかったこと」と「避難ポイントが事前に共有されていなかったこと」。
山では1人はぐれるだけで状況は一変する。だからこそ、連絡体制と避難ポイントの事前共有が必須です。
避難ポイントは「動かない場所」として決めておく
緊急時に最も重要なのは「動かず、救助を待つ」こと。
しかし、それには「ここに留まっていれば大丈夫」という避難ポイントを決めておくことが前提になります。
避難ポイントは、道標や分岐点、小屋、沢の合流点、目印のある場所などが適しています。
必ずしも建物である必要はありませんが、「後から見つけやすい場所」であることが重要です。
出発前に「万が一はぐれたらここに集合」と全体に伝えておけば、それだけで遭難リスクは大きく下がります。
位置を知らせる仕組みを準備する
自分の位置を簡単に知らせる手段を持っておくことで、発見までの時間を短縮できます。
おすすめなのは以下の方法です:
- いちおくる君:
- クリック一つで自分の現在地をあらかじめ登録した相手にLINEやSMSで送れるサービス。
オフラインでも動作可能な仕様で、公式サイトから利用可能。

- GarminやCorosのグループトラッキング:
同じデバイスを使うメンバーで相互に位置をリアルタイム共有可能。特にGarminやCorosはロガーとして優秀で精度が高く、電波が届けば追跡できる。 - IBUKI:
遭難対策向けに開発された登山者用GPS発信機。
登山中に自動で位置情報をクラウドに送信し、家族や主催者がリアルタイムで確認可能。
モバイル電波がなくても衛星通信が届く場所であれば機能するのが強み。
グループLINEを活用した情報共有
携帯の電波が届く前提であれば、グループLINEでのリアルタイム共有は非常に効果的です。
参加者全員を含むLINEグループを事前に作成しておけば、遅れている人の状況、集合場所の変更、体調不良などの情報を即座に共有できます。
また、「今この地点にいます」とGPSのリンクを貼るだけでも大きな安心材料になります。
位置情報を含めたメッセージは、後で振り返る際にも重要なログになります。
まとめ:はぐれても迷わない仕組みをつくる
山で「何かが起きたとき」にパニックにならない仕組み、それが避難ポイントと連絡体制の構築です。
・ここに戻ればいい
・ここで待てばいい
・ここにいれば見つけてもらえる
その確信が、遭難を防ぎ、救助を早め、命を守ります。
山の中では「つながる安心」が命綱です。
そのための工夫は、出発前にしかできません。