
「稲光が見えてから対処」では遅すぎる。
登山中の雷は、その破壊力と突発性から最も命に直結する自然現象の一つです。
特に高山域では、逃げ場も隠れ場もなく、判断の遅れが命取りになります。
富士山で経験した「雷の急接近」
これは私自身が体験した事例です。
高地順応のトレーニングの一環で富士山を登っていたとき、天気予報では午後から雷雨の可能性。
それを見越して早朝に登り始め、昼前には下山を開始しました。
ところが八合目を過ぎたあたりで、急に風が変わり、遠くから低く響く音が聞こえ始めたのです。
「間に合わなかったか…」
そう思った矢先、あっという間に空が暗転。
耳をつんざくような雷鳴と豪雨。
登山道は濁流になり、雷雲の中にいるような感覚に襲われました。
幸いにも、比較的低い位置にいたため落雷には遭いませんでしたが、「雷は本当に急に来る」ということを身をもって実感した出来事でした。
山の雷の恐ろしさ
雷は午後に発生しやすく、晴れていても雲の裏側で育っていることがあります。
特に夏山では、「晴れていたのに、30分後には雷」というのは珍しくありません。
また、山頂や稜線など周囲より高い場所は“避雷針”そのもの。
金属類を多く身に着けている登山者は、誘雷のリスクも高く、危険性は街中の比ではありません。
雷の前兆と“撤退”のタイミング
以下のような兆候が見えたら、迷わず下山や避難を判断すべきです。
- 積乱雲(入道雲)が近づいてきた
- ゴロゴロという低い音が聞こえる
- 風向きが急に変わった、冷たい風が吹き始めた
- 雨粒が急に大きくなった
「音が聞こえた時点で撤退」が鉄則です。
雷は10km先からでも落ちることがあります。「まだ遠い」と油断している間に、突然の落雷に見舞われる可能性があります。
どうしても雷に遭ったら
雷から逃げ切れなかった場合、以下の行動で被害を最小限に抑えることができます。
- 高所・稜線・ピーク・岩の上から離れる(とにかく低い位置へ)
- ザックやストックなど金属類を少し離れた場所に置く
- 両足を揃えてしゃがみ、地面との接地面積を小さくする
- 大きな木の下には入らない(雷が伝導する可能性)
もちろん、これらはあくまで「最終手段」。
最も大事なのは、“遭遇する前に離れる”判断です。
まとめ:「見えてからでは遅い」
雷は「晴れているうちに逃げろ」「音がしたら即撤退」が命を守る行動です。
山では逃げ場がなく、体も濡れていて導電性が高くなり、落ちたら即、命に関わります。
天気予報で「雷」の文字を見たら、その日は登山を見送るか、午前中に行動を終える。
命あっての登山です。
雷をなめず、確実に避ける行動を、心がけてください。