THE MOUNTAIN CODE 100 山で死なない基礎知識 / 未分類

0-6. チームで山に入るときの危機管理

 MA-SAN
MA-SAN

トレイルランや登山を仲間と楽しむことは、孤独な山行にはない安心感と楽しさがあります。
しかし、チームで山に入るからこそ生じるリスクや油断もまた存在します。
今回の記事では、チーム行動の中で起こりうるトラブルや危機、そしてその対策について、実際の事例を交えて解説します。

 

なぜ「チーム行動」こそ気をつけるべきか

一人で山に入ることに比べ、チームで行動することで気が緩みやすくなります。 

仲間がいるから何とかなる、という「集団の錯覚」が働き、判断力が鈍ることがあります。

特にリーダー格の人物に依存しすぎると、他のメンバーは地図も見ず、装備の確認もせず、準備不足のまま行動を開始することになります。

事例:リーダーだけがルートを知っていた山行

ある夏の日、トレイルランチームが15人で奥多摩の山に入りました。

ルートはリーダー役の男性が熟知しており、他のメンバーはその人の後をついて行くだけの状態でした。

しかし途中、リーダーが先行して下りの沢筋に入り、他のメンバーが見失います。

待てど暮らせど戻ってこないため、後続のメンバーが下山を試みるも、地図もGPSも見ていなかったため現在地が分からず、結果として警察に救助を要請する事態となりました。

リーダーは誤った道を選び、その先の沢筋で大きく転落、2日後に救出されましたが、かなりの大ケガを負っていました。

この事例の教訓は明確です。「リーダーだけが把握している山行計画は、もはやチーム行動とは言えない」ということです。

集団心理が招く危機的判断

人は集団になると、個々の判断力が薄れ、「みんながそうしているから大丈夫だろう」と思い込む傾向があります。これを集団同調性バイアスと呼び、実際の山行でも多くの事故の背景にこの心理が潜んでいます。

例えば、先頭のメンバーが明らかに道を間違えていると気づいても、後続のメンバーは「自分が間違っているのでは?」と感じて黙ってしまい、結果として全員が迷い込むことがあります。

また、体調不良を感じていても「迷惑をかけたくない」「置いていかれたくない」という気持ちが勝ち、自ら発信せず無理をしてしまい、低体温症や脱水症状に発展するケースもあります。

集団心理の中では、「判断を委ねる安心感」と「声を上げにくい空気」が同時に存在します。

だからこそ、意識的に意見を言える雰囲気や、声をかけ合う文化をチーム内に作ることが、何よりのリスク対策になります。

分散のリスク──見失い、はぐれる

特にトレイルランでは、体力差によりチーム内でのペースにバラつきが出ます。

遅れた人が焦ってペースを上げたり、前に追いつこうとして道を誤ることも。

また、先行した人が道を間違えたまま進んでしまい、誰もそれに気づかないということもあります。

人数が多いほど“誰かが気づくだろう”という他人任せが起こりやすく、はぐれた人の発見が遅れます。

リーダーの責任──全員の状態を把握しているか?

チームで山に入る場合、リーダーの役割は多岐にわたります。

  • 事前に全員の体力と技術を把握する
  • ペース配分と休憩ポイントの設定
  • 現在地の把握とルートの再確認
  • トラブル発生時の対応計画(エスケープルート、連絡体制など)

また、リーダーが全てをやろうとせず、「地図係」「最後尾サポート」「ペースキーパー」などの役割を明確に分担することで、安全性は格段に高まります。

コミュニケーションが命を守る

「誰がどこにいるか」
「疲れていないか」
「水や補給は足りているか」
といった情報を、
お互いに声に出して確認し合うことが重要です。

特に後ろを走っている人が見えない距離まで離れた場合、必ず立ち止まって待つ。
これだけでも事故の多くは防げます。

また、無線機やIBUKI、ココヘリなどの通信手段を持って行動しましょう。

心理的な緩みが起こす悲劇

チームで山に入ると
「誰かが助けてくれる」
「誰かが判断してくれる」
という依存が生まれがちです。

これが極端な例になると、熱中症や低体温の症状が出ていても「大丈夫だろう」と自分で判断せず、無理して動いてしまい、結果として重症化することがあります。

主催者・引率者の視点

トレイルラン大会やグループ登山を主催する立場では、チームでの行動に対するリスクマネジメントが必須です。

  • 試走会やイベントでは、先頭と最後尾の間に複数名のサポートを配置する
  • チーム分けを行う際、リーダーや経験者を各班に配置する
  • 事前のブリーフィングで、ルートの危険箇所や体調不良時の連絡方法を説明する

これらを徹底することで、事故やトラブルの多くは未然に防げます。

まとめ:チームで入るなら「安全の連鎖」を

仲間と山に入ることは楽しい反面、油断や責任の所在が曖昧になることで危険が潜みます。

それぞれが役割を持ち、リーダーをサポートし、互いに声を掛け合うことで、安全の連鎖を作っていきましょう。

「全員が地図を持ち、全員が判断できる」

──それが理想のチーム行動です。

THE MOUNTAIN CODE 100 山で死なない基礎知識 記事一覧

タイトルとURLをコピーしました