
「初心者だから、そんな本格的な装備はいらないでしょ?」
そう思っていませんか?
でも、山でのトラブルは“経験の少なさ”を狙うようにやってきます。
今回紹介するのは、たった700g。
水2本分より軽い、でも命を守るために最低限持っていてほしい装備です。
高い技術がなくてもいい。
これさえ持っていれば、落ちない。止まれる。つながれる。
その装備をどう選び、どう使うか──
この記事では、誰でも実践できる“セルフレスキューのはじめの一歩”をお伝えします。
はじめに:軽くすることは目的ではない
登山やトレイルランでは「軽量化」がひとつの美徳のように語られます。
軽いほど楽に動けて、疲労も減り、パフォーマンスが上がる――それは事実です。
しかし、「軽くすること」が目的化してしまい、命を守る装備まで削ってしまう人が増えています。
本当に大切なのは、「軽さ」と「命」のバランスを見極める視点です。
事例1:尾根を下りすぎて戻れず滑落死
ある登山者が、予定していたルートから外れてしまい、降りてはいけない尾根をどんどん下ってしまいました。
「このまま行けば道に出られるかもしれない」――そんな焦りの中、気づけば崖のような斜面に入り込み、戻ることも進むこともできなくなっていました。
助けを呼ぶ手段もなく、身を確保する術もなく、最終的には滑落して命を落とすことに。
あと1本のスリングがあれば、自己確保してその場に留まり、助けを待つという選択肢が取れたかもしれません。
事例2:最低限の装備と講習が命を救った
別の登山者は、同じように下りすぎた先で道を失いました。
しかし、その人は事前に受けていたセルフレスキュー講習で学んだ「自己確保の技術」を活かし、
150cmのスリングを立木に回し、環付きカラビナで確保を取り、落ち着いて救助要請を行いました。
救助までの数時間、冷静に待機できたのは、「自分はロープで地面とつながっている」という確信があったからです。
命を守るための“軽い”器材
命を守る装備というと、ヘルメットやハーネス、ザイルなどを想像する人も多いかもしれません。
しかし、実際に遭難から身を守るための最低限の装備は、わずか約695gでザックの底に常備できます。
- 150cmスリング:約90g
- 6mm補助ロープ10m:約520g
- 環付きカラビナ1枚:約70g
- プルージック用細引き30cm:約15g
これだけで「落ちない」「引き上げられる」「止まれる」選択肢が生まれます。
これを削って数百g軽くしたところで、命が失われたら何の意味もありません。
何かにつながっている安心
人は「どこにもつながっていない」ときに最も不安になります。
だからこそ、滑落しそうな場所や行き場のない場所で、「自分が何かに確実につながっている」という感覚は、冷静さを保つための強力な自己暗示になります。
逆に、つながっていないことで不安が募り、動いてしまい、かえって命を危険にさらす。
こうした例は、山岳救助の現場で何度も見てきました。
まとめ:削っていいのは余分な装備。命を守る装備は残す
軽量化は悪ではありません。
しかし、軽くするために命を守る手段を削ることは、登山において本末転倒です。
“軽くて、命を守れる装備”はあります。
その代表が、スリング・ロープ・カラビナという最低限のセルフレスキュー装備です。
「使うことはないかもしれない」
でも、「あってよかった」と思う日が来たときに、それがあるかどうかで結果はまったく違ってきます。
命を削ってまで軽くする必要はない。
軽さと命を両立させる工夫こそ、現代の山行に必要な知恵です。
興味がある人向けに徐々に講習会などを行っていこうと思います。